植物の葉・茎・子実等の器官には、しばしばトライコーム(毛状突起)がみられ、モデル植物を中心に研究が進んでいます。しかし、イネなどの主要作物種における研究蓄積は少なく、とりわけ、作物生産に関わる生理生態特性とトライコームの関係はほとんど不明でした。
これまでに、野生イネO. nivaraの葉毛性に着目して、栽培イネとの交雑後代から葉毛系統を選抜し、葉毛性に関わる単一の優性遺伝子BLANKET LEAF(BKL)を染色体6上にマッピングしました。葉毛系統は、栽培イネ親品種と比較して葉毛密度が約8倍高く、BKLにより葉身小維管束上の表皮細胞(macro hair)が伸長したと考えられました。また、本系統は、個体・群落における日中の葉面温度が1-2℃高いことを見出すとともに、高密度の葉毛はイネの蒸散を抑制して光合成水利用効率を向上させることが明らかになりました。今後、イネの水利用効率の改善に向けた有用形質として、熱帯アジアにおける節水栽培への応用が期待されます。
現在、BKLをはじめとした葉毛遺伝子の同定・単離を進めつつ、葉毛を介した境界層抵抗の変化と水利用効率の関係、葉毛性の環境応答(気温、湿度、乾燥など)について研究を行っています。
図1. IR24 と IRGC105715 (a, b), IR24 と IL-hairy (c, d) の葉毛の表現型. (e) 連鎖解析に用いた IL-hairy のグラフィックな遺伝子型. IRGC105715とIR24に由来する染色体領域はそれぞれ赤と白で示す. (f) 縦棒はSSRマーカーの位置を示す.
図2. ポット栽培 (a, b) および圃場栽培 (c, d) 条件下における穂孕み期のIR24とIL-hairyの可視画像とサーモグラフィ画像.
図3. IR24およびIL-hairyの光合成特性. 穂孕み期における異なる光強度 (ML: 400μmol m-2 s-1; HL:1500μmol m-2 s-1)下での純光合成速度 (Pn), 蒸散速度 (Tr), 拡散伝導度 (gl) および光合成水利用効率 (WUEp). 括弧内の数値は, IR24の値に対するIL-hairyの値の比 (%).